一種の愛情

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が、祭りのない

この祭りは、地元教会にちなむ聖人の生誕を祝う行事らしい。カソリックと子供の博打の結びつきは、少々、奇妙である。
 T君は、四十八年の祭りの夜、リトル・イタリーに出掛け、一軒のバーに入って飲んでいた。そのときの彼はまだ、ニューヨークという都会をほとんど知らない。
 その彼に、バーの親爺が声を掛けて来た。いい仕事があるけど、遊んでいるのだったらやってみないか、というのである。
 職を捜していた彼は、一も二もなくうなずき、ひきあわされたRと名乗る男の車でハドソン河を越え、ニュージャージーのラマダ・イン(モテル)に連れて行かれた。そこには、トレーラーが何台も並んでいた。
「その中身が問題でしてね。Rはリトル・イタリーに小屋を出していた、カーニバルの興行師だったんです」
 翌朝、ふたたびリトル・イタリーに連れ戻されたT君は、祭りの期間中を倉庫で過ごすことになる。景品として用意された人形や、ソーダや、コーラの箱のあいだが、彼の寝床であった。そこには、カナダ人のダニーと、黒人のウイリーと、彼の恋人で、マリリンという白人のグラマーがいた。
 彼らはいずれも、T君と同じく、下働きのために雇い入れられた若者たちである。
 T君は、ウォーター・ゲームの台を任されることになった。これは水鉄砲で的を射て、正確に当たれば、その勢いで上に吊るした宇宙船が、徐々に落ちてくるという遊びである。複数がゲームに加わって、一番先に宇宙船を落としたものに、景品が渡される。
「イッツ オンリー クォーター。イッツ イージー」
「サウンド オブ ザ ベル。シュート ユア レッド リトル マーク」
「NO1 カミング ダウン ストロングリー。NO5 イズ フォローイング。NO3 スローダウン」
 呼び込みから、“実況放送”まで、彼の仕事であった。そのときの口上を、改めて実演してみせる、二十七歳のT君は、K大卒で、ジャーナリスト志望だという。
「お代は、わずかの二十五セント。やり方は簡単」
「さあさあ、合図のベルだよ。赤い的をしっかりねらって——」
「一番が優勢。五番が追ってます。三番は勢いがよくないよ」
 日本語に直せば、こんなふうになるのであろう。ひらたくいえば、彼の仕事は、香具師であった。
 リトル・イタリーを、彼が加わってから一週間で切り上げた一行は、途中、町々で興行を打ちながら、マイアミへと南下して行った。
 冬場は、ふところ具合のよい避寒客で賑わうマイアミが、最高の稼ぎ場なのだそうである。
 T君とその仲間にとって、寝床が倉庫の床からトレーラーの床へと移ったことは、さして苦痛ではなかったが、祭りのない期間は、週に五ドルしか給料をもらえないことを知らされて、それが現実となったとき、彼らは空腹という、もっとも耐えがたい忍耐をしいられることになった。
「朝から晩まで、くる日もくる日も、パンにピーナツ・バター、それだけでしたからね」
 祭りのあいだ、R氏は、一日の終わりに台をまわって、テラ銭の箱から紙幣だけをつかみ出して行く。残った硬貨を、彼に使われる連中が、その貫禄に応じて分配するのだが、新入りのT君に渡るのは、どれほどでもない。
 ダニーのそそのかしで、T君は、売り上げをくすねることをおぼえた。
 ウォーター・ゲームの台には、足もとのところにボタンがついていて、これを踏むと、初めて水鉄砲が作動する仕掛けになっている。そして、ボタンを踏んだ回数は、自動的にメーターに記録される。
 日中、売り上げの中から適当に着服したT君は、深夜、人が寝静まるのを待って、ウォーター・ゲームの台がつくりつけになっているトレーラーに忍び込み、一旦、メーターをゼロに捲き戻しておいて、ツジつまが合う回数まで、ボタンを踏み直すのであった。そして、その作業は、当然、シンジケートとかかわりがあるだろうR氏が、週末にメーターをチェックにまわるときのいかめしい風貌を暗闇の中に思い浮かべるとき、肝を冷やさずにはいられない、きわめて危険な賭けだったのである。
 それにくらべれば、同じ深夜、彼の台よりはるかに大きな賭け金を扱うトレーラーをまわって、胴元が立つあたりのすき間というすき間を手さぐりであたる方が、はるかに安全な臨時収入を得る途であったといえる。ときに、胴元が着服しようとして隠し、持ち去ることを忘れた紙幣が、彼の指先に触れることがあった。しかし、これには、確実性に乏しいという難点があった。



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