一種の愛情

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で不動明王が背負

「おお……」
 と縁に集った男たちの間に驚きの声があがった。龍馬の持つ刀は青白く光っている。一人が縁先きで中腰になって目を凝《こ》らし、鋩子《ぼうし》のあたりを観察した。
「珍らしい。火焔《かえん》ではないのか……」
 刃文が切先きで不動明王が背負う火焔のように揺れ動いてみえた。
「こちらは進んで行くだけだ。刺されるのがいやなら打ち払えばよい」
 龍馬は無造作な青眼でゆっくりと押して行く。若侍はそう言われ、恐怖と屈辱にかっとなって、黄色い大声をあげて龍馬に打ちかかった。
 斜め上段から打ちおろす若侍の刀を、龍馬が軽く小手をひねってはねあげた。二筋の白い光の帯が交差し、一方が更にふたつに分れてとんだ。キーンという鋭い音が男たちの耳に残った。
「おう……」
 一斉にどよめきが起った。若侍の刀は脆《もろ》くも真ふたつに折れ、先端がはるかかなたへとんで庭の土につきささっている。
「刀は長く剛いほうがよい」
 龍馬はそういうと刀を納め、鞘に入れた。若侍は息を呑んだまま手もとに残った折れ刀をみつめている。
「凄《すご》い刀を持っている」
 男たちは羨《うらやま》しそうに言って散って行く。
「土佐は土佐。なまじ江戸の風をまねると土佐のよさまで失ってしまう。僻地には違いないが土佐は強兵の国だ」
 龍馬は若侍に諭《さと》すように言った。

 千葉定吉は有名な神田《かんだ》お玉ガ池の千葉周作の弟で、土佐藩邸に近い鍛冶橋《かじばし》門外の京橋《きようばし》桶町に道場をもっていた。
 龍馬は小千葉と呼ばれるその定吉の道場で北辰《ほくしん》一刀流を学ぶことになった。小千葉には重太郎、佐那、里幾、幾久の四人の子供がいて重太郎と佐那はすぐ龍馬と深く交際するようになった。
 きっかけは、田舎者の龍馬が見せた思いもかけぬ海外知識だった。
 その年の六月三日の夕暮れ、アメリカ東|印度《インド》艦隊司令官ペリーが、四隻の軍艦を率いて浦賀《うらが》沖に姿をみせていた。
「日本を奪《と》りに来たのです」
 江戸中がひっくり返るような騒ぎの中で、龍馬は最初から判っていたとでも言いたげな表情で言った。
「龍馬……」
 重太郎が呆《あき》れて絶句し、佐那が笑いながらたずねた。
「龍馬殿ははじめからご存知だったのですか」
「いつ来るか、知りはしませんでした。しかしアメリカばかりではありません。世界中のあらゆる国がやってくるはずです」
「なぜです」
「それは……」
 龍馬ははじめて自分の言っていることに気づいた様子であたりをみまわした。佐那も重太郎も龍馬の言葉を待ってじっと顔をみつめていた。「慶長《けいちよう》の頃、奥州|伊達《だて》家に支倉常長《はせくらつねなが》という男がいました」
「聞いている」
 重太郎がうなずいた。「政宗公が遠く海の向うの切支丹《キリシタン》の王に使いをつかわしたのだろう。支倉常長はその折りの使節だ」
「そうです。頃は元亀《げんき》、天正《てんしよう》のあとの戦国の余熱さめやらぬ時代です。関ケ原の合戦がすんでも、天下の次第はあながち徳川家にかたまったとは言い切れない情勢でした。奥州伊達家も、徳川の背後から次の天下をうかがっていました。或る時期には、徳川家より一歩先んじて次の時代に備えていたと言ってもいいほどです。それが支倉一行の海外派遣なのです。彼らはローマに入り、スペインにおもむき、日本の王の使いとして政宗公の信書をかの地の主たちに手渡したのです」
「それと今の黒船さわぎとどういう関係があるのだ」



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