一種の愛情

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ーを身を挺して

 実を明せば龍馬《りようま》の家は坂本の本家ではない。坂本の本流は太郎五郎移住以来、連綿とこの才谷の地に続いていた。
 従ってサイは坂本家の墓守りなどではなく、サイこそ本家なのった。
 考えてもみよう。
 太郎五郎は明智光秀の長男であり、皇統《こうとう》を根だやしにして新国家建設をもくろんだ織田信長が光秀の兵を京に向かわせたとき、太郎五郎は近江《おうみ》坂本城に在ったのだ。
 光秀は織田信長のクーデターを身を挺して防ぎ、本能寺にこれを屠《ほふ》って天下に逆臣の汚名をきて、遂に小栗栖《おぐるす》の藪《やぶ》で殺されたあと、太郎五郎は辛うじて坂本城を脱出して琵琶湖《びわこ》を渡り、高浜にいた山内一豊の妻千代を頼った。千代はこれをかくまいとおし、後年一豊が土佐《とさ》入国を果すとこれに随伴《ずいはん》して才谷の地へ至った。
 ヒの血筋から言えば、一豊は傍流のヒであり、太郎五郎はヒの宗家につらなっている。恐らく領主山内家とは隠微なかかわり合いを持ちつづけたことだろう。
 そのヒの宗家につらなる太郎五郎が、町方に住むという発想をするはずがない。ヒの血が薄まって、真実を覚れぬ傍流も生じたに違いない。町方に入った子孫はいつの間にか本家を忘れ、サイという奇妙な一族が、墓所を守って代々才谷の地に住みついているとしか思わなくなっていたのだ。
 そうした中でも龍馬の家は比較的本家サイに近く、時折りは龍馬のようなヒの血の濃い体質を得ていたようだ。そのような隔世遺伝はすべての坂本系にあり、彼らはひそかな伝承によってそれらヒの体質を才谷のサイに生れ落ちるとすぐ託して来たのだ。
 畸形《きけい》をもらい育てる墓守り……サイがのちに非人のたぐいと見られてしまったのも、こうした事情によっている。
 ただ、龍馬の父八平は、何らかの理由でその秘密を承知しており、出生時からそれと知りつつ龍馬を養育したらしい。
 龍・馬……
 坂本家の伝統にあってケタ外《はず》れのこの命名も、そうしてみれば当然のことだろう。
 注意したいのは、土佐に渡ったヒの血が、坂本、大浜の二家に限ったことではないということだ。さきに引用した検地帳には、太郎五郎のほか、才谷の住人として、与七、係左衛門、与三左衛門、太郎九郎、又八、珍光、新二郎、大夫衛門などの名が載っている。
 どれが太郎五郎の子であり、どれが石川小四郎……光秀の部下で山内千代の兄である人物の係累《けいるい》であるか、今ではもう判然としない。しかしそれらもやがて谷を出、土佐の各所に散って行ったのだ。幕末、龍馬と共に活躍した土佐の志士たちの中に、谷から出た家系の者が何人いたか、ひとつの興味ある問題である。
「サヒは……」
 と老人は言った。質素だが恐ろしくがっしりした本造の建物の中だった。老人はいかにもヒの直系らしく、サイをサヒと正確に発音している。「サヒはその昔御所の忍者であった。勅忍の宣下を賜《たまわ》り、幾たびも御所の危難をお救いし奉った。この土佐のヒは、そのひとつのわかれである。宗家は江戸にあった天海大僧正であったが、そのあとのことはこの地が余りにも僻遠《へきえん》であって、我らには不明となってしまった。しかし判らぬながらも、土佐のヒにひとつの言いつたえがある。それは高皇産霊神《たかみむすひのかみ》の末裔《まつえい》として、太古より山々をへめぐって探《さが》し求めて来た産霊《むすび》の山のみなもと、芯《しん》の山が、宗家の手によって所在をつきとめられたらしいことだ。その芯の山の場所は、江戸か、しからずんば日光山である」



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