一種の愛情

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藤得意の誇張がふ

う菓子屋で待ち合せをしようという申し出を受けたのに、わざわざ田園でない、ただの調布の町のドイツ屋というパン屋へ行って三時間も待っていたというんだ。勿論《もちろん》、有牛は有牛で田園調布のジャーマンで三時間、大江の来るのを待っていた。……これがキミ、ぽっと出の田舎《いなか》青年のやらかした単なる間違いだと思うかね。当然、有牛は待ちボウケを食わされたと思ってイライラして怒るだろう。そこが大江のツケ目なんだ。『ボク何しろ、東京のことは、よくわからないんで』なんてオドオドした顔つきで言ってみろ、有牛はたちまち姉さん気取りで、待たされたという心のイライラは、いっぺんに愛情に変化したにきまっている。……ああ、有牛の馬鹿め。大江みたいなチンピラの卑劣な作戦にひっかかるとは、何たることだ
 遠藤の憤慨の言葉はこのようにして、えんえんとつきるところをしらぬ有様だった。勿論、この憤慨や嘆声には遠藤得意の誇張がふくまれてはいるだろう。しかし、それにもかかわらず、彼のシン底からのくやしげな気持は、いかにもハッキリと汲《く》みとれた。
 といっても、そのクヤシサは何にもとづくもので、いかなる程度のものかといったことは、まえに述べたごとく一向にわからないのである。しかし、それから数日たって、或る晩おそく吉行から電話がかかってきた。
「おい、どうもエラいことになった、というか、傑作なことが起っちゃったよ。いま新宿のバーで、遠藤が大江健三郎と大乱闘をやらかした」
 吉行の声は、ふざけているようにも聞えるが、彼がこれまで無用なニセ電話をかけてきたことは一度もない。のみならず、彼の声音のどこかには、友の苦境をうれえるような真摯《しんし》な響きがあって、私は話としては少し出来すぎているこの話のシンピョウ性を、まったく疑わなかった。
「で、どうした、遠藤は病院へでもかつぎこまれたか。見舞いに行こうか」
「いや、それほど大したもんじゃないんだがね、ちょっと面倒なことになるとイカンから、報告までに——」
 暗闇からきこえてくる吉行の電話の声をききながら、私はだんだんと深刻な気持になってきた。ウソから出たマコトというが、遠藤は自分の吐いたウソに飲まれかかっており、大江は大江で一種のノイローゼ現象を起している。そして、この二人が酒場の中で西部劇よろしくの大乱闘を演じたというのだから、これはまさり茫然《ぼうぜん》として同じことを繰りかえしツブやいた。






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